今から数千年前。
ある南海の孤島に、リク一族が暮らしていました。
その孤島には、
外敵は居らず、何の不安もなく、ノウノウと暮らしていけました。
リク一族の
主食はサボテンの葉でしたが、その島には大量のサボテンが自生しており、食べ物にも困ることはありません。
まさに、この世の楽天を謳歌し平和に暮らしていました。
どれくらい
時は経ったでしょうか?何不自由ない生活を送っていたリク一族に、最近困った事が起きました。
この数千年間は、
ノウノウと暮らせていたのですが、一族の数は驚異的に増え、その島中がリク一族に埋め尽くされています。
一族の長老が
ポツリとボヤきます。
『近頃はこの島も、暮らしにくくなったわい。サボテンの葉も簡単には手に入りにくく、ワシらの手の届かん高い樹の上にしか残っとらん!どうしたもんかいなぁ?』
見回すと、
島中のサボテンの樹には、上の方に少し葉を残すばかりです。
この一族は、
これまで、何不自由なく暮らせてきたので、工夫を凝らすことができないため、どうする術も持ち合わせていませんでした。
その
末路は明らかです。
島中で、一族間のサボテン争奪戦争が起き、段々と一族の数は淘汰されていきました。
そんな中、
この一族の中に、カイと言う名の、好奇心旺盛で争いごとが嫌いな若者がいました。
いつものように
数少ないサボテンの葉を巡る争いが島中で起きている昼下がりの午後。
カイはお腹を空かせ浜辺でグッタリと横たわっています。
カイは、
他人と争うより、このまま一人静かに消えていこうと思っていましたが、若さのためか簡単には死にきれません。
と、その時、
カイの目の前に、大波に乗って一株の海藻が流れてきました。
が、カイ達一族は、
サボテンの葉は食べるのですが、その他のモノは口にしたことがありませんでした。
その海藻を
目にしたカイは、『どうせこのまま死んでしまうんだから、空腹だけでも満たして死にたいよ。
こんな海の草なんか食べたら、お腹を壊して直ぐに死ねるだろう』と、勇気を出してその海藻を口にしました。
すると
何ということでしょう!初めは匂いが鼻についた海藻ですが、モソモソ噛んでいるうちに空腹は治まり、力が体にみなぎって来るではありませんか。
カイは、
浜辺に打ちあがっている海藻を、次々に食べていきました。
ところで、
この浜辺には、争いに破れ、年老いたモノ達が、カイと同じようにあの世からのお迎えが来るのを、ジット横たわって待っていました。
この年寄り達は、
カイが海の草を貪る姿を見て、『あぁ、とうとうカイは、死ぬ恐怖から気が狂ってしまったわい。あんなに元気で明るい若者だったのに、可哀想じゃのう』と、哀れみの涙を流しました。
ところが、
そのカイが狂い死ぬどころか、元気を取り戻して行くではありませんか。
その様子を見た一族の長老が、まさかと思いながら、カイの真似をして、海藻を口にしてみました。
食べ慣れない
海藻は、初めは苦々しかったのですが、不思議と食べれないモノではありません。食べ続けるウチに、その苦々しさにも慣れ、食が進みます。
『いくら腹が減っているとはいえ、
ナカナカいけるじゃないか!皆の衆も食べてみようや』と呼びかけます。
他のモノ達は、
初めは恐る恐る海藻を口にしますが、やがてその美味しさに目覚め、海岸は狂喜の声が上がりました。
その様子を
喜びの眼で見ていたカイは、フト不安が頭を過りました。
『この海藻も、このまま食べ続ければ、この浜からなくなって、また争いが起きてしまう。何とか海藻をいつも食べる事が出来ないだろうか?』と、考え始めます。
この一族にとって、
将来を不安に思い、考えを巡らし始めた、はじめての瞬間でした。